「PERFECT DAYS」の Blu-ray が出たからじっくりと観直してみた。vol.4

Blue あなたとわたしの本 263 (「パーフェクト デイズ」感想)

 

 

休日の夕方、平山は出かけます。フォークナーの「野生の棕櫚」も読み終えたようです。歯をみがき、口ひげを整え、つなぎの制服もカバンに入れます。クリーニングするのです。そして、腕時計をはめるショットがここで初めて出てくる。車のキーは残されます。自転車にまたがります。

神社でお参りし、コインランドリーに寄ります。町の写真屋にも行きます。フィルムをあずけるのです。この店の主人は、アメリカ文学研究者で翻訳家の柴田元幸さんですよね。僕もずいぶんとお世話になっている翻訳家さんです。オースターとか、ミルハウザーとか。この柴田さん、演技も上手いのですよ。「上手いも何も、『こんにちは』とか『うん』くらいしか言っていないじゃないか」と思われる人もいるかもしれませんが、カメラの前でお芝居をした経験のあるかたならわかると思います。自然な動作で、これほど力を抜いてしゃべるのがどれほどむずかしいことかを。柴田さんはもっと映画に出られたほうがいいですよ。見事な演技でした。驚きました。役所広司さんと対等に芝居をされているのですから。すごいですよ。

平山は古本屋に寄ります。100円コーナーで文庫本を買います。僕も古本屋さんには日常的に行きます。大好きです。Kindle Paperwhiteでも読みますが、やはり紙の本に愛着があります。線を引いたり、書きこんだり、しるしを付けたところをパッ、と見直すのにも、紙の本のほうが実はスピーディなんですよね。逆に Kindle 端末の利点は文字のサイズを自分の好みにできるところでしょう。

映画も、配信でも観ますが、本当に好きな映画はBlu-rayでそろえてしまいます。電子書籍と紙の本の関係性に、そのあたりも似ているかもしれませんね。kindleで読んで気に入ったら書籍も手に入れますから。基本的に、僕はフィジカルが好きなのかもしれません。CDもいまだに買いますし。

平山は幸田文のエッセイをレジに持っていきます。タイトルは「木」。店の女主人はこう言います。「幸田文はもっと評価されないと駄目よね。おんなじ言葉使ってんのに、どうしてこんなにちがうのかしらね」。僕は恥ずかしながら、これまでに幸田文さんを読んだことがありませんでした。女主人にここまで言われては読まないわけにもいかないでしょう(笑)。「近いうちに読むぞリスト」に加えました。そこには本がつねに12、3冊は僕を待っています。うれしい悲鳴をあげています。とても幸せなことですね。

平山は、石川さゆりさんがおかみを演じる小料理屋に行きます。例の腕時計はこの店に行くときにだけはめるようです。男には、こういうことってありますよね。〝勝負腕時計〟みたいなものが。〝勝負ネクタイ〟とか。平山さんはかわいい人です。この歳になっても恋心をいだけるのですから。ステキなことだと思う。立ち寄っていた神社でも恋の成就をお願いしていたのではないかと、勘ぐってしまいましたよ。

あと、小料理屋にこんな歌の上手いおかみがいるわけがない、リアリティがないという声も聞かれるようですが、いや、世の中いらっしゃいますよ。たしかに石川さゆりさんレベルの人となるとそうそういないでしょうが、それに近い人は、います。知っています。歌の世界でも、絵画の世界でも、文芸の世界でも。なぜこの人にもっと〝光〟が当たらなかったのだろうと思わず考えこんでしまった人が、僕の人生にも、いました。スポットライトが運よく当たった人のほうがまれなんですよね。まれなことなのかもしれません。

力があるのに、世に出られなかった人は、ごまんといる。どうしてなんだろう? 哀しくなるときがある。もちろん、日の目をみることだけが幸せなことではないのですが。こと芸能・芸術に関しては、優れた人が優れていると認められてほしいと願う気持ちが、僕のなかにはあるようです。そういった感覚は、ある種の危険性を秘めていることもわかっているのですが。旅をする、その道中にこそ喜び・楽しさがあることも理解しているのですが。 ──認められるべき人が、認められてほしい。そんなはがゆさや、やるせなさ、技芸を磨こうとする喜びや楽しみさえも──平山さんは、超越してしまっているのだろうか。

僕は、僕以外の何者かになろうとして、いまだに苦しんでいるのだろうか。

 

 vol.5 につづく。

 

 

 

 

 

 

 劇場で観たときの感想はこちら。

 

btomotomo.hatenablog.com

 

 








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