エッセイ Blue 9
ほとんどの人にとって、文章を読むのは つらいことだと僕は思うんです。
結論から言うと、魅力的な文章とは読むのに苦労しなくてもいい文章、ということになります。歯をくいしばらなくても読み進められる文章です。異論はあるかと思いますが、僕にとってはそうです。
では読み手に努力感を感じさせない文章とは、どういったものなのでしょう?
◯ リズムのある文章
心地よいリズムのある文章だと思います。読んでいて行から行へ、苦もなく飛び移らせてくれる文章です。行と行でブツブツと切れている印象だと、乗ることができません。読み手は「しんどいなぁ」と感じてしまいます。
極端なことを言えば内容がたいしてなくても、リズムさえあれば人は読みつづけられます。リズムに乗って読んでいる、そのこと自体が気持ちよくなってくるからです。そのくらいリズムは大切だと感じます。
◯ 紙面のさわやかさ
あまりにも漢字が多く、黒々とした紙面だと読む気がなくなります。ひらがなばかりというのも区切りが分かりづらい。リズムにも乗れなくなってきます。
バランスよく、漢字、ひらがな、カタカナを交えたいものです。
プリントアウトした紙を すこし離して眺め、紙面にビジュアル的な美しさがあるかを確かめてみるのはどうでしょう?
◯ 初稿は〝来る〟まで待つ
初稿は自然に湧きだしてくるまで待ってください。
僕自身のことになって恐縮ですが、当ブログもいま270回分の投稿があります。「なにかいいことを書いてやろう」「なにか癒しの言葉を書いてやろう」などと思ってパソコンに向かったことは1回もありません。そんなことをしたら〝いやらしいもの〟になるか、どこかで読んだことがあるようなものになるのが落ちでしょう。
まず先に着想が来ます。それを待ってください。
散歩をしているときとか、心が傷ついているとき、読書をしているときなんかに僕の場合はよく来ます。音楽を聴いているときにもよく来ます。
紙と筆記用具を常に持ち歩いているので、すぐに書き写します。すぐに書き写さないと、もう思い出せません。思い出せても、時間が経っていると純度が低い初稿になっています。
次々と文章が思い浮かぶのが普通ですから、来たらすぐに書き写してください。書き写せば、もう安心です。あとはそれを推敲すればいいのです。
初稿は〝来るまで待つ〟これが基本だと僕は考えています。
ここまで三つにまとめましたが、あっさりと二つにしてみましょう。
読み手に努力感を感じさせない、魅力的な文章を書く方法は、
◯ 初稿が〝来る〟まで待つ
◯ 推敲する
この二つのように思います。
初稿を受け取ったら、納得のいくまで推敲してください。何度も何度も読み返し、書き直しているうちに、リズムも生まれ、紙面もビジュアル的に整ってきます。
読者は時間をかけて読んでくれます。お金を払っていない場合でも、時間を払ってくれています。時間を払うということは、命を払ってくれているということです。書き手もやれるだけのことをやるのは当然のことでしょう。
完成したら、「あぁ、これでいいんだな」というカチリ、とした感慨が来ます。その感触が訪れるまで推敲してください。
書き手の健全な自負心、読者を尊重する想いは、かならず伝わります。
最後に、推敲するとき僕が気をつけていることを箇条書きにし、記事を終わりたいと思います。
誤解のないように申しておきますが、「僕は魅力的な文章が書けている」などと思い上がっているわけではありません。こういった原稿を記してみようという着想がそれこそ〝来た〟から、ノートに書きなぐりました。それを元にブラッシュアップを重ねたのが今回の記事です。備忘録的な意味合いもあります。
どなたかのお役に立てれば、それはやはりとても嬉しいことです。
推敲するときのチェックポイント
(小説的な技術も若干含まれています)
◯ 一つひとつの文章は短いか? 長めの文章を使うときは意図的に。文章の長短はすべて理由がなければならない。
◯ 心地よいリズムが生まれているか? 文章は一文字増えただけで、あるいは減っただけでリズムが変わってしまう。手直ししたら冒頭から読みなおし、流れを整えよう。
◯ 紙面にビジュアル的な美しさがあるか?
◯ 主語と述語が離れすぎていて、意味をつかみにくい文章はないか? 修飾語と被修飾語も同様。分かりづらい文章はこれらが離れている場合が多い。
◯ 主語がなくても成立するのが日本語。不必要な主語ははぶかれているか? 取り除けるがゆえに、主語と述語がかみ合っていない〝ねじれ〟も起こりやすいので注意。主語と述語だけをつなげてみて、おかしくないかチェックしよう。
◯ 同じ言葉をすぐ近くで使っていないか? 類語に置き換えられないか?
◯ 語尾が「です」「ます」、あるいは「る」「た」「だ」、ばかりになっていないか? バリエーションをつけられないか? アクションシーンなどは例外。「た」「た」「た」で迫力が出ることもある。
◯ 体言止めを乱用してはいないか? 体言止めは臭みが出たり、嫌味な感じになるのがほとんど。ただ文末のバリエーションの一つではある。使うときは慎重に、最小限に。これもアクションシーンは例外。
◯ 「また」「そして」「というのも」「だから」など接続詞を使いすぎて文章のスピードが落ちていないか? (接続詞の大半は削れる)
◯ 逆に、スピード感がありすぎて軽くなってはいないか?
◯ 「たちまち」「やや」「決して」「確かに」など、副詞を乱用してはいないか?
◯ 「少し」「ちょっと」「何かしら」「何か」「何となく」「何だか」「絶対」「まったく」「やっぱり」「これ」「この」「それ」「その」「あれ」「あの」「それから」「まるで」も、はぶけるのではないのか?
◯ に、に、が、が、は、は、などが一文のなかで重なりすぎてはいないか? (同じ助詞は二つまでに抑えたい)
◯ 「が」という助詞は逆説でも何でもないときでも、が、が、が、と繋げられるだけに要注意。逆説以外は最小限の使用にとどめているか?
◯ 形容詞や修飾語が名詞の先に来ていないか? 名詞の後に形容詞の順にできないか? そのほうが分かりやすくはないか? (とても美しい京都の街 → 京都の街はとても美しい)
◯ 修飾語の多すぎる文章は冗長さにつながり、幼稚な印象を与えやすい。
◯ 「その友人の発言が私を驚かせた」、英文法のような日本語を書いてはいないか? 「友人の発言に驚いた」でいいのではないのか? 「驚いた」も描写で表せないか?
◯ 「私はコンサートに行くことができるでしょう」、英文法的。「私はコンサートに行くでしょう」で十分。「こと」「もの」は無意識に使いがち。削れることがほとんど。
◯ 誤字脱字はないか?
◯ 流行語を使ってはいないか? (あっという間に古くなる)
◯ 記号を使いすぎてはいないか? (ちなみに「!」や「?」のあとも文章を続けるときは一文字あけるのがルール)
◯ 少しでも〝あやしい〟と思われる言葉は辞書を引いて意味を確認しているか?
◯ その単語が本当にベストなのか?
◯ 句読点は本当にそこでいいのか?
◯ 段落はそれでいいのか?
◯ 構成はそれがベストなのか?
◯ 説明ではなく、描写できないか?
◯ 形容詞の代わりに具体的な描写で表現できないか? 「ものすごい爆発音でした」を「ガラス窓が揺れるほどの爆発音でした」などに。
◯ 描写は五感を刺激するものとなっているか? 視覚のみの描写にかたよってはいないか? 音は? 匂いは? 感触は? 味は? 第六感ではどう感じる?
◯ 説明でいいところを、くどくどと描写してはいないか?
◯ 不必要なことを書いてはいないか? 必要なことは書かれているか?
◯ あってもなくてもいいものは、ないほうがいい。
◯ 当たりまえのことを書いてはいないか?
◯ 冷静に書かれているか? 血は通っているか?
◯ 原稿は数日間、寝かせたか? もっと寝かせてから手を加えたほうがいいのではないか?
◯ 読まずにはいられない冒頭になっているか?
◯ 余韻の残る結びの一文となっているか?
◯ 原稿に緩急があるか? タメを作ったり、スパートをかけたりしているか?
◯ もっと削れないか? もっとシンプルにならないか?
◯ 独自の表現はあるか?
◯ 健全な自負心と読者を尊重する想いを忘れてはいないか?
◯ そのときそのとき持ちうる力の全てを注ぎ込んでいるか?
◯ 特定の人を傷つけてしまう可能性のある言葉を使ってはいないか?