Blue あなたとわたしの本 269
同じ映画を見るのも3度目ともなると、新たに気づくこと・想うことがありますね。
冒頭のワンカットに宿るドキュメンタリー的緊張感
映画の冒頭、平山が寝床から身を起こすシーン。布団をたたみ、落ちていた文庫本を手にし、何となく眺めるのですが、ここで私の脳内には、文庫本の表紙がカットインされました。そのタイトル、「野生の棕櫚」の文字も。 実際の映画では、そんなことは起こりません。部屋を出ていくところまでがワンカットで淡々と撮られます。読んでいる本が何なのかもわからない。そうすることによって、ドキュメンタリー・フィルムを観ているような緊張感が生まれています。いかにも〝映画です〟というカット割りをしてくれると、ある意味 安心して鑑賞することができるのですが、ヴェンダース監督はそれを選択しなかった。映画館で観たとき、出だしからヒリヒリするような感覚をおぼえたのは、こういった演出が功を奏していたのでしょう。納得がいきました。
宇宙と一つになる「全一(ぜんいつ)」の表情
公衆トイレの清掃シーン。若者が入ってきたため、平山は外に出る。壁に映る木漏れ日に目をやり、そのあと空を見あげます。風にそよぐ葉むら。わずかに微笑む平山。その無垢なひとみ。このとき平山は、世界と一つになっているのがわかります。宇宙と一つになっている。自分が消え、宇宙が自分で、自分が宇宙──そこにはもう孤独はない。
〝全一〟を表した表情です。こんな面差しを作れる俳優は世界的にもそうはいないでしょう。それが映像として映っている。残っている。誰でも見ることができるものとして。映画「PERFECT DAYS」はこの世のものではないと、前レビューで書きました。その一つの証明がこのカットです。始まって10分も経たないうちに、この奇跡的なショットを我われは目にします。
〝出たり入ったり〟する悟りの境地
その後 平山は、子どもを連れた若い母親に失礼な態度をとられます。車の中で、険しい目つきになっているという指摘も、前回 書いたとおりです。そう、平山はいつもいつも〝全一〟の 悟りの境地のまま過ごしているわけではありません。感情がつねに安定しているわけでもない。〝出たり入ったり〟しています。悟りというのは、常人には手の届かない遠いものでもなく、 瞬間的には何度も経験するものではないでしょうか。あなたもわたしも、きっと体験しています。そういった共通項が観る者の意識下に作用し、平山という男に親近感と愛着をおぼえるのです。そんな気がします。
宇宙からの おねだり? 平山のおどけの解釈
このあと同僚の青年・タカシが、金がないと恋もできないからカセットテープを売っちゃおうと、勝手なことを平山に言いますよね。 大切なカセットを平山は売りませんが、有り金のほとんどすべてをタカシに貸してやります。 そしてその帰りの車中で一人になったとき、舌を出したりして おどけながら平山は笑うのです。この心境はさすがに理解できないと、前レビューでも書きました。
今回、3度目を観て、フッと思い至ったことがあります。──これはもう平山という男にとって、タカシが金を貸してくれと言ってきたと同時に、宇宙が金を貸してくれと言ってきたのと同じ意味合いだったのではないか、と。
平山は自他の区別がときどきつかなくなるのではないでしょうか。 他人と宇宙の区別もなくなるのでしょう。宇宙が、「女の子とデートしたいからお金を貸してくれ」と言ってきたら、そりゃ舌を出して笑っちゃいますよね。なんかそんな心境だったんじゃないかなぁ。こんなヘンなこと、1回目・2回目を観たときは考えもしませんでした。今回初めてこんな想いを持ちました。つまり、宇宙からの〝頼まれごと〟に、平山は応じたのです。目の前にボールが来たからそれを打ち返した。ある種の喜びすら感じながら。 こんなふうに受け取ると、腑に落ちます。逆に言えば、こうでも捉えないと、このシーンは本当に不可解です(笑)。
繰り返される〝PERFECT DAYS〟
映画鑑賞は──同じ映画を何回も見るのは──やっぱり面白いですね。
代わり映えのしない1日が繰り返されているようでいて、一つとして同じ1日はない。 平山の人生も、あなたとわたしの人生も。様ざまなエピソードがこちらの意思とは関係なく目の前に送り届けられてきます。コントロールは不可能です。──ですが、ある意味 すべての1日が、「PERFECT DAYS」なのではないでしょうか。それでいいのではないか。いや、完璧なのではないか。 眼前に届けられた出来事の意味と意図を、我われが見通せないだけで。淡々と、笑みさえ浮かべ、それをやわらかくレシーブすればいいだけなのかもしれません。──そんなふうにも思いました。
この感慨もまた、今回の鑑賞で初めて抱いたものです。
vol.2 「わかんないことだらけ」の人生、〝謎〟のなかを泳ぐ私たち へ つづく

映画「PERFECT DAYS」、3回目を観て想うこと ──人間にとっての〝成功〟とは何か? vol.2
「わかんないことだらけ」の人生、〝謎〟のなかを泳ぐ私たち
映画「PERFECT DAYS」、3回目を観て想うこと ──人間にとっての〝成功〟とは何か? vol.3
人間にとっての成功とは〝人に喜ばれる存在となること〟
映画「PERFECT DAYS」、3回目を観て想うこと ──人間にとっての〝成功〟とは何か? vol.4〈完結〉
この世のものではない「PERFECT DAYS」
映画館で初めて観たときのレビューはこちら。
Blu-ray で2度目に観たときのレビューはこちら。
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