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切り離すことができない同じひとつの光

Blue あなたとわたしの本 139 

 

 

 ふたりはテーブルをはさんで向かい合っている。

 青年が質問を終えると、魔法使いでもある老人は、さっそく魔法を使いはじめた。

 

 小説家たちがその生涯に記した作品を、青年の前に積み上げていったのだ。

 次に画家たちが残した絵画も、同じように積まれていった。

 音楽家たちの書いたメロディーを、あらゆる芸術家たちの創造物を、机の上に積み上げていった。

 医学、科学、宇宙論の発展に貢献した人物たちの仕事もあった。

 偉人たちばかりではない。無名ではあったが、数多くの人間たちの心のこもった生涯の仕事、それらも立体映像となって積み上げられていく。

 いつの間にか天井も消えていた。澄みわたった星空を背景に、高く高く積み上げられていく。

 老人の魔法の作用で、青年はそれらひとつひとつの内容をはっきりと見、聴き、感じることができた。そして何度も何度も心を揺さぶられた。巨大な渦巻きに巻き込まれているようだった。それは暖かな光でできた渦巻きだった。

 

 老人はひと仕事を終えると、ふうっと大きく息を吐いた。あとは言葉を発することもなく、じっと座っていた。

 青年もしばらく動かなかった。やがて静かに椅子から立ち上がり、老人に一礼し、その古い家をあとにした。

 しばらく歩いてからふり返ると、星空の下、窓から明かりがもれるその家は、青年の目に、とても穏やかなものに映った。

 

 青年に、もう迷いはなくなっていた。誰にも言ったことはなかったが、青年の心をとらえて離さない〝そのこと〟をやってみようと思った。与えられた時間のかぎりを使って、〝そのこと〟をやりつづけようと思った。

 

 青年にとって確かなものは、もう自分だけではなかった。

 むしろ自分よりも、自分の去ったのちも生きてゆく人たち、そしてこれから生まれ来る命たちのほうが確かなものに思えた。

 この世界そのもののほうが確かなものに思えた。

 そして、それらと自らとは、切り離すことができない同じひとつのものであるようにも感じられた。

 残された時が3ヶ月であろうと、3年であろうと、30年であろうと──日々を、その瞬間瞬間を、慈しみ、生きていこうと思った。

 青年は、もう孤独も感じなかったのだ。

 

 青年が老人に突きつけた質問? 例のあの質問ですよ。

「人間はわずか数十年で死んでしまうというのに、生きていても意味がないじゃないですか」というあの、ね。

 

 

 

 

 その一夜から、すでに50年の月日が流れた。

 青年はその日に決意した〝仕事〟を今もつづけている。

 青年の純真のこもったその仕事は、青年が去ったのちを生きる人びとを、そしてこれから生まれ来る命たちをも励まし、楽しませ、勇気づけることだろう。

 青年はこの世界に活力を与えつづけ、自らにも活力を与えつづけることだろう。

 

 

 そう、

 もともとたったひとつの命が、

 つかの間の個々としての生を、

 生きていたのだから。

 そしてそのたったひとつの命は、

 いつの日までも生きつづけるのだから。

 

 

 切り離すことができない、

 同じひとつの光として──。

 

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