森の奥の廃ホテルで

Blue あなたとわたしの本 225 

 

 

  森の奥にある

  閉鎖されたホテル、

  その広いデッキに並ぶ

  テーブルセットの一つに

  座っているのが、

  好きだ。

  机の中央から突き出てる

  緑色の大きな

  パラソルは、

  まだ綺麗なんだ。

  

  あなたもいちど、

  ここに来ないか?

  椅子の背に深くもたれ、

  言葉を使わないで

  お話ししない?

  野の花の香りが

  ただよってくるんだ。

  樹木は、U字型に草原を

  取り囲んでるの。

  その上に広がる空の色が

  移り変わっていくのを

  眺めているんだよ。

  風が梢を揺らす

  まどろむような

  葉ずれを聞きながら。

  ゆっくりと旋回する鳥の

  さえずりが、

  そこに、溶けて。

  

  二人、並んで

  座っていようよ。

  人の世からも遠く離れて。
  

    
    あのころも

    旅をしていたんだ。

    ずっと移動しているんだよ。

   「ろくでなし」

    なんて言われたことは、

    一度や二度じゃないぜ。

    空を眺めることだけには

    精通しちゃったからさ、

    そこにはなんの区切りも

    境目もないことを、

    知っちゃったんだよ。

    雲がどれだけ気ままに

    渡ってゆくかってこともね。

 

  人が嫌い、ってわけでもないんだけど、

  人間の中にばかりいると

  気が滅入ってくるんだ。

  カレンダーも

  時計も必要ないところへ

  行ってしまいたくなるんだなぁ。

 

 「世間」をある程度、

  無視するとどうなるか知ってる?

 「世間」のほうでもある程度、

  無視してくれるんだよ。

  それだけだよ

  あなたが思ってるほど、

  恐ろしいものでもない。

 

  たいして欲しくもないものを

  求め、

  わけもわからず

  駆けずり回っているうちに、

  手の中の

  砂金は、

  こぼれ落ちていくんだ。

 

  
  いちど、

  ここへ来ないか?

  最近の

  僕のお気に入りのこの場所へ。

  椅子の背に身をあずけて、

  緑色のパラソルの下で、

  お話ししない?

 

  あなたとなら、

  一日中、

  いっしょにいても

  いいような気がするんだ。

 

  できることなら、

  二人とも、

  
  透きとおってしまったままで。

 

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