note で小説を販売します。
定価は200円です。
物語は、上昇するエレベーターのなかで一人で暮らすことにする、17歳の女の子の話です。「引きこもり 幻想小説」といったところでしょうか。
作品冒頭の「安息の地」という散文詩を、この記事の最後に掲載します。
その17歳の女の子が書いたものです。
いきなりそんな〝ネタバレ〟していいのか? と思われるかもしれませんが── いいんです。すぐにわかることですし、それによって面白さが減じるタイプの話でもないですし。
note のリンクにご訪問いただけましたら、「安息の地」の後につづく「らしき世界」という散文詩、そしてそのあとの本編も── かなり長く── 無料でお読みいただけます。
かなり特殊な作品(後半、ややショッキングなシーンもあります)ですし、カクヨムで発表した3つの小説を読んでいただいた方に今作も気に入っていただけるか、不安はあります。
ストーリーを楽しんでもらうというよりも── どちらかというと── 文章を楽しんでいただきたい作品かもしれません。
総じて僕は、ストーリーよりも文章を愛するタイプの書き手なのかもしれませんが。
僕にとって小説という方法は、「Blue あなたとわたしの本」でも「エッセイ Blue」でも「もうひとつの Blue」でもなく、あるいはそれら全てであり、さらにプラスアルファを加えたもの、と言えるのかもしれません。
お読みいただけましたら── とても嬉しく思います。
1パーセントの深い哀しみ
安息の地
わたしがそのホテルに列車に乗ってやって来たのは冬がはじまるまえだったように思う。
住み込みで働ける二十代の女性。条件には合っていた。採用がきまり、部屋をあてがわれた。客室と変わらぬ豪華な造りだった。
夜中の十二時になると、地下の一室へわたしは降りていく。エレベーターに乗り、深いふかい場所へ。ところどころランプの火がゆれる曲がりくねった廊下を進み、鉄格子で閉ざされた部屋へと入る。正面、左右の壁はすべて赤レンガでできている。顔が陰になった二人の男がいる。わたしは着ていたものをすべて脱ぎ、両腕を横へ拡げたかたちで正面の壁に固定される。手首のところに冷たい鉄の留め具がくる。宿泊客たちがそのあと部屋へ入ってくる。男も女も、年配のものもいる。
彼らは注射器を手にし、たがいに血を抜き合う。血をゴムまりのなかに注入する。みずからの血液の入ったボールをそれぞれが持つ。そしてそれを、わたし目がけて投げつける。身体の上でボールはあっけなく砕け、跳ね散らかる。人びとは投げる。赤色がわたしの視界一面、放射状に飛び散る。何十人もの人びとが絶え間なく投げる。奇声を上げるものもいる。泣いているものもいる。腕が極端な長さにのびるもの。顔が飴のように細長くなって天井まで届くものもいる。ひらいた口がいびつな楕円形になる。楕円形の向こうに投げつける人びとの姿が見える。怒りを投げつける。哀しみが飛び散る。彼らの内側にあったものが、わたしの肌で音をたてて砕ける。
客たちは入ってきたときよりも少し透明になって部屋から出ていく。何人かは投げ終わると同時に激しく震え、その場でかき消える。口もとに笑みを浮かべた安らかともみえる表情が、しばらくのあいだだけ空中をただよっている。
それが、わたしの毎晩の仕事だ。昼間はなにもすることがない。ふたたび夜がくるまで、わたしはあてがわれた部屋のベッドでただ眠りつづける。
ホテルでの仕事に就いて本当によかったと思う。わたしはやっと心からの安息を得た。わたしは何十年も何百年もこのホテルにいたいと思う。そして人びとの身体のなかにあるものを── この全身で受けとめるのだ。