エッセイ Blue 2
北大路ビブレの大垣書店のレジ前に、くるくる回るタイプのラックがあるのだが、そこに猫のポップが貼ってある。初めて見たとき僕は度肝を抜かれた。
茶色のトラ猫が、二本足で思いっきり直立している。両腕も大きく広げている。
顔付きはというと、確信に満ち、一切の迷いというものがない。おのれを信じ切った両の目などは怖いほどだ。
そして言葉でこうメッセージを発している。
アピールしなきゃ パスは来ない
衝撃を受けた。
そうか、そうだよなぁ、と教えられる思いだった。
アピールしなきゃ パスは来ない
たしかにそのトラ猫は言葉だけではなく、全身でアピールしていた。
俺にパスを出せ、と。
俺が決めてやる、と。
絶対に悪いようにはしねぇ、と。
仮にそれをサッカーだとしよう。
僕は迷わずこのトラ猫にパスを出すだろう。
こいつなら弾丸シュートをゴール隅に突き刺してくれるはずだ。
たとえ空振りしたとしても、こいつは一瞬たりとてヘコむこともなく、また両腕を大きく広げ、こう叫ぶだろう。
俺にパスを出せ、と。
そうだ、そうなのだ。
アピールしなきゃ パスは来ない、のだ。
僕はこのトラ猫に、深く教えられた。
北大路ビブレの大垣書店で勘定を済ませるたびに、
「あのぉ、あのトラ猫のポップ── 用済みになったら、いただけないでしょうか? 僕にはまだあのトラ猫が必要なんです」というセリフがそこまで出ているのだが、どうしても言えない。勇気が出ない。
だめだ だめだ!
何事によらず、
アピールしなきゃ パスは来ない、のだー!!
(このトラ猫は全国各地の書店にいるのでしょうか? それとも北大路ビブレの大垣書店にしかいないのでしょうか? もしそうだとしたら、交通費をかけてでも見に行かれる価値があると思います。生で見るその衝撃は凄まじいものがあります。きっとあなたのことも勇気づけてくれることでしょう)
© 智(とも)