Blue あなたとわたしの本 75
青年は祭りが嫌いだった。
馬鹿馬鹿しいと思った。
意味がないと思った。
だからもちろん
加わりもしなかった。
みんな馬鹿らしいと思わないのだろうか。
あんなに笑ったり、
必死の形相になったり、本当に
馬鹿みたいだ。
青年は人々を見くだしていた。
祭りの意味のなさに気づく自分は
頭がいいのだと思った。
それが青年の──
ほとんどただひとつの──
慰めのようなものだった。
だが青年は、
気がついていなかった。
本当に〝頭のいい〟人たちは、
祭りが馬鹿馬鹿しいことなどは
最初からわかっているのだということに。
意味のないことなど承知したうえで
加わっているのだということに。
必死になることさえも彼らは楽しんでいたのだ。
祭りが馬鹿げていることなど
彼らにとっては結論ではなく、
前提だった。
そのうえで祭りに参加していた。
そして、
「馬鹿馬鹿しいが、
悪くもないものだなぁ」と思っていた。
時には心からの
笑みさえももらした。
「馬鹿げている。でも
さなかに身を投じれば──
面白い」
青年は祭りの馬鹿らしさについてだけを語り、
参加しないことを唯一のプライドとし、
徐々に灰色になり、
やがては透けていき、
そして──
消えていった。
青年はたしかに、
通常の人間より細やかな神経を持っていた。
思いやり深いところもあった。
頭も悪くはなかったのだ。
青年も、
いちど加わってみてもよかったのだ。
馬鹿になり、
笑い声をあげ、
必死にもなって、
いちどだけでも
人びとの輪のなかで踊ってみてもよかったのだ。
ふくらみ、
ひらき、
汗まみれになって。
そこには青年の知らない感情もあったかもしれない。
それに祭りは、
長くはつづかないものだった。
祭りはつかの間に終わってしまうのだ。
加わろうか加わるまいかと思い悩む値打ちもないほどに、
あっという間に
幕引きとなってしまう。
だが、
いまはまだ、
祭りは行われているようだ。
音が聞こえてくる。
光がはじけている。
匂いもただよってくる。
手をのばせば指さきも触れそうだ。
いつまでつづけられるのかはわからないけれど、
祭りは、
まだ、
たしかに行われている。
ひゅーる。どんどん。
ひゅーる。どんどん。
ひゅーる。ぺかぺか。どんどんどん。
あなたやわたしの、
一歩、二歩、
その先で。