夏、家にペンキを塗る

Blue あなたとわたしの本 174

 

 

 田舎へ引っ越した。

 平屋を借りた。

 大家さんはけっこう遠くにいる。

 好きに暮らしていいと言う。

 家まで いじっていいらしい。

 家賃も安かった。

 ありがたいの一言。

 

 ホームセンターで塗料を買ってきた。

 外壁、屋根に、

 ペンキを塗ることにした。

 倉庫で眠ってたベンチにも。

 思えば、

 家にペンキを塗るなんて

 生まれて初めてだ。

 家にペンキを塗るという行為は、どこか微笑ましい。

 だって、別にやらなくてもいいことだし。

 でもどこか、明るい前向きさのある行為だ。

 

 ペンキの入った缶に刷毛をつける。

 とぽん、と。

 塗る。

 塗る。

 ツン、とくる匂いごと

 バシャッ、

 壁を白に。

 屋根を緑に。

 ベンチは空の色にしちゃおうか。

 

 汗まみれになって、刷毛を動かしていると、

 ムラなく塗ろう という思いしかなくなってくる。

 それもなくなってきて、無心に近くなる。

 なにをやっているのかも半分、わからなくなってくる。

 

 ひと段落つき、休憩する。

 大きなグラスに

 氷を入れ、

 麦茶を飲む。

 まだまだ終わらないけれど、

 きれいに塗れた壁や

 屋根の一部を見る。

 薄暗い倉庫のなかにあったベンチは

 いまでは空色になって、

 ほこらしげに 笑ってる。

 ── いいねぇ。

「いいじゃん」と言って、

 草っ原に大の字にひっくり返ってみる。

 視界のすべてが

 空になる。

 蝉の鳴き声の

 角度が変わる。

 土の匂いが

 近くなる。

 空の青が

 まぶしくて まぶしくて

 目を細める。

 くちびるは

 笑みのかたちになっていた。

 氷だけになったグラスを

 カラン、と

 目の前にかざし、

 意味もなく

 空を透かしてみた。

 

 ── とてつもなく、

 幸せな ひと時を過ごしていることに

 ふっ、と気づく── 

 

 

 いまでは思い出となった、

 夏の、ある一日。

 

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