エッセイ Blue 7
自分だけの風景というものがある。
そんな風景にめぐり逢うと、すぐにそれとわかる。
一年に2、3回もない。あればいいほうだ。
友人といっしょのときにそんな風景に出逢うと、僕はできるだけ早いうちに、その場所へまた向かう。
今度は一人で。
予定はなにも入れない。真っさらなスケッチブックのような一日のなかで、新しい風景と向かい合う。僕も── 僕の気にいる風景たちも── 人見知りだから、馴れるまでに時間がかかる。自分の心がひらくのを待つ。風景のほうも心をひらいてくれるのを待つ。
この時間も、きらいではない。
やがて風景は── 内気な十代の少年や少女が徐々にガードをゆるめるように、その柔らかな美しさを僕に見せてくれるようになる。
花々は立体感を増し、色彩は鮮やかになり、木々の輪郭はくっきりとし、空が奥行きを深める。鳥の声や虫の羽音が聞こえだす。命の甘やかな匂いも嗅げるようになる。風の角度を肌に感じる。光の粒子が空間を飛びまわりだす。
僕は自然と、微笑んでいる。
彼の、彼女の美しさを、言葉を使わずに伝える。讃える。あなたがどれほど魅力的なのかを。
彼らも微笑みを返してくれる。光の粒子の数が増え、空間を埋め尽くしていく。
とても清潔で、幸せな時間だ。
自分だけの風景というものがある。
あなたにも、あなただけの風景があるのではないですか?
それはささやかなことかもしれない。
ささやかではあるけれども、
それはとても──
祝福に満ちたことだと思うのです。