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透明人間と喫茶店

エッセイ Blue

エッセイ Blue 1

 

 

 ひとりで過ごすのが好きだ。

 まったく苦にならない。それでもずっと家にいるとさすがに落ちつかなる時がある。そんな時は喫茶店に行く。人を誘うことはまずない。ひとりで行く。

 喫茶店が好きなのだ。

 もちろん喫茶店ならなんでもいいというわけではない。

 小さすぎるところは駄目だ。口ひげを生やしたマスターと目があうような狭さでくつろげるわけがない。音楽のボリュームが大きすぎるところも駄目。言葉が耳に入ってくるから日本語の歌も駄目だ。インストゥルメンタルがいい。できれば静かめのクラシック。

 ラジオを流しっぱなしにしているなんてのは問題外だ。非日常の空間に身を置くためにお金を払っているのに「なんでラジオやねん」と思う。ただいま臨時ニュースが入りました! って「なんで喫茶店で臨時ニュースを聞かなアカンねん」みたいな。

 座る場所も大問題だ。基本はもちろん隅っこ。窓が横手にあり、木々のそよぎなんかが見えるのもいい。風が強く、そよぎすぎるのは落ち着かなくなるので、強風の日はだいたい家でじっとしている。

 席で大事なのは、こちらからは店内を見渡せるが、他の客の視界には入りにくい場所であるということだ。僕が座っている背後にも男女が鎮座していて「ぎゃはははは!」などと聞こえてくるなどありえない。落ち着いてコーヒーなど飲んでいられるわけがない。

  条件をすべてクリアし、「うん、ここはいい喫茶店だ」と二度、三度と通っていても、レジで勘定を払っているときに女性店員が「いつもありがとうございますー!」とでも言おうものなら雷に打たれたような衝撃が全身を駆け巡る。「お、覚えられてたのね?」みたいな。その店へ行くことは二度とないのは言うまでもない。

 

 けっきょく── 僕は透明人間になりたいのかもしれない。透明人間になって、いろいろな場所に出かけたいのかもしれない。気に入った喫茶店が見つかれば、すみの席に陣取り、人々を観察したり、物思いにふけったりしたいのだ。心安らかに 。

 

 ── しかしある日、そんな透明人間の平穏な日常も打ち破られるときが来る。レジの前を通ってドアから出て行こうとすると、特殊能力を持った一人の女性店員にこう声をかけられるのだ。

「いつもありがとうございますー!」と。

「み、見えてたのね?」みたいな。

 

 その店へ行くことは二度とないのは言うまでもない。

 

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